。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。

 

第一章

『出逢ってしまった』

仲直り!?

 

 

ったく!

 

 

何が気に食わねぇってんだよ!!!

 

 

自分はちゃっかりマドンナからケーキ貰っておいて!

 

 

 

 

 

そんなモヤモヤ、苛々を抱えたまま何日か過ぎた。

 

 

「ねぇ聞いた~?新垣さん、龍崎くんに告ってフられたらしいよ」

 

 

いつもの通りリコがあたしの机に来て、珍しく声を潜めた。

 

 

いつもは鬱陶しいぐらい元気なのに。

 

 

 

 

 

って……フられた!?

 

 

 

 

て、そんなに驚くことか……

 

 

だってあいつが好きなのは男なんだからな。

 

 

 

そっか……マドンナでもだめなんだ。

 

 

こりゃ正真正銘のゲイだな。

 

 

 

うんうん、と納得をするものの心のどこかでちょっとほっとしていた。

 

 

ん!?

 

 

ちょっと待て!!

 

 

あたし何でほっとしてんだ~~~!!!

 

 

 

 

「ごめん!あたしトイレっ」

 

 

あたしは自分の考えを打ち消すように勢い良く席を立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

P.139


 

可愛くて性格良さげで、器用で……

 

 

マドンナを狙ってる男はいっぱいいるって言うのに。

 

 

あいつも……叔父貴のことが好きなんだな。

 

 

 

 

そう思うと、何故だか胸の奥がきゅっとなる。

 

 

とぼとぼと歩いていると、三年の校舎に続く中央階段で、メガネの姿を発見した。

 

 

 

 

メガネ……?

 

 

そっちは三年の校舎だぞ。何の用があるってんだよ。

 

 

そんなことを思って目を凝らしていると、メガネは一人じゃなかった。

 

 

キモ金髪野郎とその取り巻きたちに囲まれてる。

 

 

どう見ても「仲良くお話しましょ」って言う雰囲気じゃない。

 

 

逃げられないように、キモ金髪野郎がメガネの肩にがっちりと腕を回している。

 

 

 

 

あいつ

 

 

 

やばいんじゃねぇか?

 

 

 

 

 

 

「もっと自分を大事にしたら?」

 

 

 

メガネの言葉が頭を過ぎる。

 

 

 

うっせぇな。てめぇに言われたかねぇんだよ!

 

 

 

あたしはスカートの裾をぎゅっと握ると、くるりと踵を返した。

 

 

 

あんな奴どうにでもなっちまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも―――

 

 

 

 

 

「ぁあ!!もぉ!!!」

 

 

 

 

 

P.140


 

あたしは再び向き直ると、メガネの元へ走り寄った。

 

 

何でこのあたしが、恋敵で喧嘩してる相手を助けなきゃなんねんだよ。

 

 

 

 

 

でも、あいつはあいつなりに何度もあたしを助けてくれた。

 

 

時に間違ってることを叱ってくれた。

 

 

 

 

 

悪い奴じゃない。

 

 

嫌な奴じゃない。

 

 

 

 

そう思ったから、あたしは動いたんだ。

 

 

 

 

 

 

「メ……龍崎くんっ!!」

 

 

 

 

 

 

階段の下で叫ぶ。

 

 

最初にメガネが、そしてキモ金髪野郎と取り巻きたちの順でそれぞれが振り返った。

 

 

 

P.141


 

「朔羅さん……」

 

 

メガネは振り返って、大きな目を更に大きく見開いている。

 

 

「朔羅ちゃん」

 

 

キモ金髪野郎もあたしを見て、メガネの肩に回していた腕をぱっと離した。

 

 

酷くバツが悪そうだ。

 

 

「あの……これは……」しどろもどろに答える。

 

 

 

 

あたしは階段を駆け上った。

 

 

キモ金髪野郎が一瞬ひるんだ様に、一歩後ずさる。

 

 

 

 

「龍崎くん、先生呼んでたよ?」

 

 

 

 

 

あたしはメガネの腕の裾を引っ張った。

 

 

「え?先生……?」

 

 

メガネは目をぱちくりさせている。

 

 

つべこべ言わずついて来い!この鈍感っ!!

 

 

そんな視線をメガネに送ると、こいつは納得したように頷いた。

 

 

 

「早く。すみません、先輩。また今度」

 

 

あたしは営業用のスマイルを浮かべてキモ金髪野郎を見上げた。

 

 

 

 

「あ、うん」

 

 

キモ金髪野郎は一瞬引きとめようとしたのか、手を浮かせたがそれが妙に宙ぶらりんになっていた。

 

 

「すみません。また」

 

 

メガネも便乗して謝ってる。

 

 

 

何謝ってるんだよ。このお人よしが。

 

 

お前しめられるとこだったんだぞ。

 

 

そう思いながらあたしはメガネの袖を引っ張って、廊下の奥へ進んだ。

 

 

 

 

 

P.142


 

「ここまでこりゃ大丈夫だろ」

 

 

廊下の奥まったところ。

 

 

階段の影。

 

 

人通りはゼロ。

 

 

「朔羅さん……」

 

 

あたしの後ろでメガネが遠慮がちに口を開いた。

 

 

「あ?」

 

 

「いや……腕、痛いんだけど…」

 

 

腕?

 

 

あたしはそろりとメガネの右腕に視線を向ける。

 

 

んぎゃ!!

 

 

あたしいつの間にメガネの腕を握ってたんだ!?

 

 

「わ、悪り」

 

 

慌ててぱっと手を離す。

 

 

「いや、いいんだけど……」

 

 

メガネはちょっと俯いて、すぐにぱっと顔を上げた。

 

 

はにかんだような笑みを浮かべてる。

 

 

わっ

 

 

その笑顔は反則だって!

 

 

 

 

 

「朔羅さん、ありがとね」

 

 

 

P.143


 

 

「へ?」

 

 

「助けてくれたんでしょ?先輩たちから」

 

 

「……まぁ」

 

 

あたしは曖昧に頷いた。

 

 

最初は助けるつもりなんてなかったよ。面倒くさいから。

 

 

でも、ごちゃごちゃ考えてたら勝手に体が動いた。

 

 

衝動的だったとも言える。

 

 

 

 

 

 

「朔羅さん……この間はごめんね」

 

 

 

 

ふいにメガネがあたしに向き直って、まっすぐにあたしを見た。

 

 

「ちょっと苛々してたんだろうね。言い過ぎた。反省してる」

 

 

淀みないまっすぐな強い視線。

 

 

目を逸らそうと思ったけど、逸らせない。

 

 

メガネの目にはどこか威力がある。

 

 

きつい、とかそんなんじゃない。

 

 

人を惹きつける何かが……あるってそう感じたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「謝るのはあたしの方。明らかに悪いのはあたしじゃん。

 

 

 

あたしこそ、ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

P.144


 

あたしの言葉にメガネは目をぱちぱちさせた。

 

 

まるで子犬みたいなその視線に、あたしは思わずぱっと顔を逸らした。

 

 

まるで呪縛から解けたみたいに。

 

 

「良かったぁ。朔羅さんとこのままずっとギクシャクしたままだったらどぅしよって思ってたんだ」

 

 

「別に……それでもいいじゃんか。あたしたち別に恋人同士でも友達同士でもないんだし」

 

 

「良くないよ。僕は朔羅さんの従姉弟じゃないか」

 

 

戸籍上ではな。

 

 

 

 

 

「家族……じゃないか」

 

 

メガネがちょっと目を吊り上げて強く言った。

 

 

でも怒ってる風ではない。

 

 

 

 

 

 

家族……

 

 

 

 

 

 

「そうだったな……ごめん」

 

 

 

 

「ん」

 

 

メガネは短く頷くと、そっとあたしに近づいた。

 

 

おでこにメガネのキスが落ちる。

 

 

 

 

 

P.145


 

「へへっ。仲直りのチュー」

 

 

メガネは顔を離すと、にこっと笑った。

 

 

あたしはチューされたところを軽くさすったが、別に嫌がったり怒ったりの反応はしなかった。

 

 

「あれ?怒らないの?」

 

 

「おめぇには色々諦めたよ」

 

 

けっとあたしが言い捨てると、メガネはガバッとあたしに抱きついてきた。

 

 

「じゃ、仲直りのハグっ」

 

 

あたしはメガネの腕の中でピキッと固まった。

 

 

「な、にやってんだよ!!ぶっ殺されてぇか!!」

 

 

思わずそう怒鳴ったけど……

 

 

ん?ん!!

 

 

こいつ……意外に引き締まった体してんな。

 

 

背中とか、腹とか。

 

 

無駄な脂肪がついてなくて、きれいな筋肉のつき方してる。

 

 

「さ……朔羅さん?」

 

 

メガネの声が微妙な感じに歪んで頭上から振ってきた。

 

 

「何だよ?」

 

 

 

 

 

「その触り方……ちょっとエロい」

 

 

 

 

「わ゛」

 

 

あたしは慌ててメガネを引き剥がした。

 

 

「てか、アメリカ帰りか何か知らねぇけどよ、お前他の女にもこんなことしてるのか?」

 

 

ふと疑問に思ったことが口に出た。

 

 

 

 

メガネは一瞬キョトンとして目をぱちぱちさせたものの、すぐに笑顔になった。

 

 

 

 

「朔羅さんだけだよ?」

 

 

 

 

あたしだけ……

 

 

「って、それってあたしを女扱いしてないってことかよ」

 

 

ムカつく奴だぜ。

 

 

そんなあたしの心情も知らずにメガネはくすっと意味深な笑みを漏らした。

 

 

 

「ほんっと……鈍いよね。朔羅さんって」

 

 

「に、鈍いだぁ?」

 

 

あたしは眉を吊り上げたけど、メガネは堪えてない様子でにこにこしながら手を振ってあたしの元から去っていった。

 

 

 

 

 

 

P.146


 

そんなわけで、あたしたちの喧嘩は無事終幕を迎えることになった。

 

 

どこかつっかえてた胸のもやもやが取れて、すっきりしたにこにこ顔で家に帰ると、

 

 

「お嬢、メガネくんと仲直りしたんですか?」

 

 

と蠍座キョウスケが聞いてきた。

 

 

「なんっ!何で分かるんだよっ」

 

 

「お嬢は分かりやすいですから」

 

 

キョウスケはにこりともせずに、相変わらずの無表情で答えた。

 

 

あたしってそんなに分かりやすい?

 

 

「うぅ、お嬢がメガネの野郎と仲直りできてよかった」

 

 

と半泣きでマサやタクたちをはじめとする組のもんが、感動している。

 

 

ってかいちいち大げさなんだよ、おめぇらは。

 

 

そう突っ込みたかったけど、みんな心配してくれてたんだよなぁ。

 

 

「ありがとな。みんなのお陰だ」

 

 

 

あたしは笑って、みんなを見た。

 

 

あたしの笑顔を見て、泣き出したいのを必死に堪えながらみんな微妙に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

P.147


 

メガネとも仲直りしたし、また平和な(?)日々がやってくる。

 

 

と思ってたら、あっという間に5月になりゴールデンウィークを過ぎたら、中間考査が待っていた。

 

 

平和ボケしてたあたしは勉強することをすっかり忘れていて、試験の出来は散々だった。

 

 

2年の昇降口にでかでかと、試験結果が張り出される。

 

 

あたしの順位は……

 

 

う゛

 

 

下から数えた方が早いや…

 

 

千里も似たりよったりの順位で、互いに「仲間!」と言い励ましあった。

 

 

リコはちゃっかり真ん中よりちょっと上にいて、

 

 

「まぁまぁかな」なんて余裕ぶっこいてる。

 

 

 

 

 

 

 

「それより見て!1位、龍崎くんだよっ」

 

 

「へ?」

 

 

あたしは掲示板を見た。

 

 

1位なんてあたしの成績では程遠いし、別に誰がなろうか知ったこっちゃない。

 

 

だからいつもスルーしてたのに。

 

 

 

 

 

 

1:龍崎 戒 498点(500満点中)

 

 

 

 

 

でかでかと載せられた文字は確かに見間違えようがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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