。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。
第二章
『事件です』
恋バナ!?
「でもさぁ学園のマドンナ新垣さんでもだめだったんだよ?前に男勝りな子が好きってアンケートに書いてあったけど、あれホントなのかなぁ。
龍崎くんって好きな人いると思うんだぁ」
リコが小鳥のようにため息を吐いた。
リコ……残念だがあいつは“男勝り”じゃなく“男”が好きなんだ。
ちなみにあたしはメガネのライバルでもある。
だってあいつは叔父貴を好きなんだから。
可哀想に…性別の壁だけはどうやっても超えられないからな。
そんなことを思っていたら、ふいにリコが顔を上げてあたしをちょっと見た。
急に顔を上げたからびっくりした。
「龍崎くんはさ、朔羅のことが好きなんだと思う」
…………
「はぁ!?」
リコの言葉にあたしは素っ頓狂な声をあげた。
「な、何を言い出すんだよ!」
て、思わず素が出ちまった。慌てて口を噤んだけど、リコは気にしてないようだった。
「だってさぁ、龍崎くん朔羅と話してると楽しそうなんだもん。この間だってさ、進藤先輩から朔羅を助けたじゃん」
進藤…?誰だっけそれ………あぁキモ金髪野郎のことか。
本気で名前忘れてた。
P.206
「あれは、席を先輩に取られてたから怒っただけだよ…ちょっと」
「でも、龍崎くんがあんなに怒ったところみたの初めてだよ?いっつもにこにこふわふわしてるのに」
確かに……
そういや、メガネ2号(忘れちゃいけねぇ、あたしの後ろの席のキモ野郎)からも助けてくれたっけ?
あんときは…マジで迫力あったな……
まぁあたしの見間違いだと思うけど。
「でも、あたしを好きってことは絶対ないよ」
あたしはリコを安心させるためにことさら明るく言った。
リコは「う~ん」と納得してない様子で唸ったけど、すぐにその考えを断ち切ったみたい。
マンガを広げると、
「ねねっ!朔羅は初エッチどこでしたい??」
と話題を変えてきた。
「え…は、はははははは初エッチ!!!」
急に話題がぶっ飛ぶな!リコのテンションについていけなくてあたしはどもった。
「うん♪ほら見て~」
とマンガをあたしに寄越してくる。
ページにはやたらキラキラした男女が裸で抱き合ってるシーンが描写されていた。
「…………」
声も出ねぇ。
「憧れるよねぇ。初エッチ♪そういや隣のクラスの山田さん!同じバスケ部の一年上の先輩とヤッたらしいよ。それも体育館倉庫で」
体育館倉庫!!?
なんっつぅ大胆な!!
P.207
「へぇ…山田さんってちょっと大人しめの子だったよね?意外って言うか…」
あたしは口をもごもごさせた。
何て反応していいやら。
そりゃあたしだって興味がないわけじゃない。そう言う話はやっぱ気になることで…
「だよねぇ。でも更に驚きなのは、その先輩と付き合ってないんだって。何か雰囲気に流されちゃったらしくてぇ」
「へ、へぇ……。ってかリコ何でそんなこと知ってるの?」
リコはあたしの問いに「エッヘン」と軽く咳払いをして、
「リコ様独自のルートがあるのでございます」と得意げに言ってみせた。
「でも、付き合ってなくてもできるんだね…」
あたしは目を伏せた。
別に山田さんを軽率だとも思わないし、軽蔑もしていない。だけど、何で好きでもない人とできるんだろ……
そう言うのって愛し合ってするもんじゃないの?
愛し合って……
『朔羅……愛してる……』
“あの男”の言葉が蘇る。
一生消えない傷が、また傷つけられたときのように鮮明に蘇る。
あたしは震える肩をそっと抱いた。
唇を噛んで、リコに勘付かれないように。
P.208
「ん~雰囲気とかやっぱ大事じゃない?何となく流れでそうなって、別に嫌な奴じゃなきゃいいかなって気もするんだ」
リコはちょっと考えるようにして小首を傾げた。
「まぁ朔羅は潔癖だから、そうゆうの許せないと思うけど」
リコの言葉にあたしは顔をばっと上げた。
違うよ……
あたしはリコが思うような女じゃない。
あたしは―――……
汚れてる。
「朔羅……?」
リコが不思議そうに目をぱちぱちさせてる。
「ごめん!あたし変なこと言った?」
ううん……全然リコは悪くない……
いけないのはあたし。
だめなのはあたし。
あたしの手は血で真っ赤に汚れてる。
あの日“あの男”を殺したときの血の臭いが今でも残ってる。
叔父貴がくれた香水でごまかしても…………
纏わりつく死臭が消えないんだよ。
P.209
「あ…まぁあれだね?うちら学校ではあんまりこういう話しないから、結構楽しいね」
リコはあたしに気遣ってわざと明るい声で言った。
「うん……」
あたしも精一杯リコに笑顔で応える。
目頭のすぐ近くまできていた涙が、ふっと引っ込んだ。
「お菓子食べよ☆お母さんが今日朔羅が来るって言ったら張り切って、隣町まで買いに行ったんだ~」
「そ、それなら味わって食べないと」
あたしは皿に並べられたおいしそうなクッキーに手を伸ばした。
チャラリ~♪
着メロが流れてあたしとリコはびっくりして顔を見合わせた。
リコがぶんぶん首を振って「あたしじゃない」という顔をした。
いちいち確かめるまでもない。
「誰だよ!着メロを勝手に極妻にしやがったのはっ!タクだな!あいつしかいねぇ。こんな酔狂なことをするやつぁ」
怒りながらケータイを取り出す。
向かい側でリコがびっくりしたように目をぱちぱちさせてる。
しまった!つい素が出ちまった!!
「あ……あははははは…」
あたしはぎこちなく笑ってごまかした。
着メロはすぐに消えた。どうやらメール受信の音だったみたい。
「あのさ……ずっと気になってたけど、朔羅って誰と住んでるの?」
P.210
「え??」
「朔羅って一人っ子でしょ?お父さんお母さんも亡くなってるって言ってたよね」
「え?…うん」
「ってことは一人で住んでるってこと?その割には賑やかそうな感じだけど」
リコ!!鋭いな……
「あ~…親戚の人?かな?あはは……」
あたしは笑ってごまかした。
言えねぇ!実家が極道一家なんて。
しかもリコの好きなメガネも一緒に住んでるって言ったら、卒倒しちまうかも。
「ねぇ、そう言えばあたし朔羅んち行ったことないんだよね。今度行ってもいい?」
「だ、だめ!!」
あたしは思わず声を張り上げた。
リコがびっくりした顔で目をぱちぱちさせている。
あたしの剣幕に押されてか、若干体が後退してるし。
「いや…あの…うち古いし、汚いんだ。ほらっ!リコんちみたいに可愛いおうちでもないし、自慢できるもんでもないんだよね」
「そ、そう…?」
リコはそれでも納得行かないように眉をしかめてる。
「あ。このクッキーおいしいね☆」
あたしはお菓子をつまんで話題を変えた。
「朔羅、それポテチ……」
リコに指摘され、あたしは指につまんだ菓子を見た。
「あ、あははは……間違えちゃった」
リコは「む~」と唸ると、あたしをじっと覗き込んだ。
う゛
「なんか朔羅って謎が多いよね~」
「そ、そうかな?ふつーだと思うよ?」
声が引っくり返らないようにあたしは平静を保つのが精一杯だった。
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