。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。

 

第二章

『事件です』

失敗!?

 

 

「どういう……状況??」

 

 

困惑したようにキョウスケが眉を寄せている。

 

 

「違っ!!これにはわけがあって!」

 

 

あたしは必死に言い訳を考えた。

 

 

でもどう見ても、あたしとメガネが一緒に寝てることには変わりがなくて…

 

 

「てめ!起きろ!!いつまでくっついてる気だ!!!」

 

 

言い訳を思いつかなくて、あたしは半ば八つ当たり気味でメガネの頭を殴った。

 

 

「いでっ!」

 

 

メガネが声を上げて、そろそろと顔を上げる。

 

 

まだ寝ぼけてるのだろうか、目がトロンとしていた。

 

 

「……あれ?朔羅さん?何でいるの……?」

 

 

あ…いつものメガネだ。

 

 

「てめぇが引っ張り込んだんだろ?覚えてねぇのかよ」

 

 

「……引っ張り込んだ?…ううん」

 

 

メガネは寝ぼけた目を擦りながらゆるゆると首を振った。

 

 

あたしはその隙にメガネから離れると、ぱっと布団から飛び出た。

 

 

「…と言うわけだからキョウスケ。あたしとこいつは何にもねぇ」

 

 

あたしはまだ困惑の表情を浮かべてるキョウスケの肩を軽く叩いた。

 

 

「でも痴漢されたことは覚えてるよ」

 

 

メガネをかけながらメガネがのんびり言った。

 

 

にっこりと憎らしいほどの笑顔を浮かべてやがる。

 

 

この野郎!一番どうでもいいこと覚えてんじゃねぇ!!

 

 

そう怒鳴りたかったけど、できなかった。

 

 

何故ならそれは真実だから。

 

 

「え!痴漢??」

 

 

キョウスケが益々不審そうに眉を寄せた。

 

 

「痴漢なんかしてねぇ!今の発言を忘れろ!」

 

 

強引に言い切ると、あたしは部屋を飛び出した。

 

 

 

 

作戦其の一―――失敗。

 

 

 

 

 

 

 

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くっそぅ。

 

 

今朝はメガネの足のアザを確かめるどころか、こいつにまんまとはめられた。

 

 

まぁ本人にはその気がなかっただろうけど。

 

 

二人揃って学校に登校する間もあたしはメガネが虎間かどうかを確かめるために策を練っていた。

 

 

あたしは先に学校の階段を降りるメガネの頭のてっぺんを見た。

 

 

寝癖がついていた髪は直っていて、サラサラしている。

 

 

こうなりゃちょっと荒い方法だけど…実行するしかねぇ。

 

 

幸いにもこの西階段はあまり使われないせいか、人通りが皆無だ。

 

 

今しかねぇ!

 

 

あたしはそろりと両手を上げた。

 

 

あたしがちょっとメガネの両肩を押したら、こいつは階下にまっさかさまだ。

 

 

ちょっと荒っぽいけど…メガネが虎間だったらこんなこと簡単にかわすはず…

 

 

そう思って手を押し出すと、メガネの肩に触れる寸前こいつは

 

 

「あ」

 

 

と声を出し、スっと屈んだ。

 

 

すかっとあたしの両手が空を切る。

 

 

「見て、朔羅さん♪」

 

 

そういってメガネはにこにこしながら、にゅっと手を差し出した。

 

 

グロテスクな茶色い物体を手にしている。

 

 

「蝉の抜け殻発見♪もうすぐ夏だねぇ」

 

 

あたしは驚きに目を開いてちょっと身を引いた。

 

 

あ……ありえねぇ…

 

 

「て…てめぇ!!そんなもん見せんじゃねぇ!!!」

 

 

あたしは叫んだ。

 

 

何を語ろう…あたしは虫が苦手だ。

 

 

と言うより大嫌いだ!!

 

 

この世から抹殺したいぐらいに。

 

 

 

 

 

 

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予想外の展開にあたしは驚き…ってか、セミの抜け殻にびっくりして

 

 

足を滑らせた。

 

 

「「わっ!!」」

 

 

あたしとメガネの声が重なった。

 

 

メガネを真っ逆さまに突き落とすはずがあたしがまっさかさまだ。

 

 

だけど…

 

 

フワリ

 

 

柔軟剤の香りがして、目の前が真っ暗になった。

 

 

力強い腕の力。制服の上から触れるきれいな筋肉……

 

 

いつか虎間に背後から抱き寄せられたあの感覚に―――ひどく似ていた。

 

 

 

 

「ふ~セーフ…危なかったね、朔羅さん。大丈夫??」

 

 

 

 

 

メガネの声であたしは顔を上げた。

 

 

メガネに………抱きとめられてる!!

 

 

「だ!大丈夫だっ!!」

 

 

慌ててメガネを押しのけると、あたしはドキドキと高鳴った心臓を抑えた。

 

 

あ…あたし、どうしちゃったの!?

 

 

 

 

だってメガネの姿が虎間に重なって―――

 

 

虎間を思い出すと、心臓がドキドキする。

 

 

 

 

しっ!!心臓が―――壊れたぁ―――!!!

 

 

 

 

 

結局のところ

 

 

 

作戦其の弐は失敗に終わったわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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