。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。
第一章
『出逢ってしまった』
蠍座!?
食堂でお弁当を食べながら、あたしたちは持ってきた雑誌を開けた。
占いコーナーを覗き込む3人(何故か千里も混ざってやがる)
「あ~あたし今月ラブ運最悪ー」
リコが唇を尖らせた。
「朔羅は、3月25日生まれだから牡羊座だよね?性格は短気で喧嘩っぱやくてせっかち…?
う~ん、これ外れてない?」
いやいや、めっちゃその通りデス。
リコの隣であたしの本性を知ってる千里が苦笑いをしてる。
「今月のラブ運は、獅子座BOYと相性◎!同じ環境で、同じ目的を持つと自然に距離が縮まるよ☆だって」
獅子座……っていやぁ叔父貴じゃねぇか。
相性◎って!キャ~~~
「獅子座って俺ジャン!!」
千里が身を乗り出した。
その言葉を聞いて、一気にテンションが落ちた。
お前と一緒かよ。
「え~千里獅子座?そんな感じしないよ」
リコがパックのイチゴミルクを飲みながら、千里をちらっと見た。
「何だよ、そんな感じしないって」
「だってここに書いてある。獅子座=ライオン。百獣の王ということで、威厳が高く堂々としていて、器が大きいって。あんたはないわ」
「何だって?」
千里はムキっと怒ってる。
威厳が高く堂々としてて、器がでかい……叔父貴そのものだ。
P.36
でも―――
叔父貴はライオンではなく……龍―――だ。
片割れを無くしたつがいの龍。
気高き孤高の龍。
天からいつも地の片割れを探している。
「あ!待って牡羊座まだ続きがあるよ~」
リコの声にあたしははっと我に返った。
「何々?恋そのものは順調ですが、思わぬハプニングが。蠍座BOYの登場に翻弄されるかも…って書いてある」
蠍座?
蠍座の男なんてうちの組にいたっけかな?
サスケ、タイチ、キョウスケ……
あたしは舎弟たちの顔を思い浮かべた。この3人は、確か蠍座だったけど、あたしを翻弄する男には思えない。
特にキョウスケはいつも無表情で無口。いっつも無気力そうにしているし、空気みたいに存在感があんまりない。
「蠍座ってどんな性格してるの?」
あたしは聞いてみた。
「えっとね~、あまり喋らずミステリアスな人だって。謎大き人間ってことじゃない?」
謎多き、ミステリアスな男……ねぇ
P.37
「ま、あんまり気にすることないよ。所詮占いだしね~」
とリコはのんびり言う。
「所詮占いっても女は気にするだろ?」と千里。
そう、なんだよね~
あたしも一応女だから、占いとか大好きだし、かなり信じる方。
う゛~ん、蠍座の男って……
「それより見て!!じゃ~ん♪」
そう言ってリコは楽しそうに一枚の紙をテーブルに広げた。
「「何これ?」」
あたしと千里の声がきれいに重なる。
「龍崎 戒くんに書いてもらったアンケート♪昨日徹夜で作ったんだぁ。さっき渡したら快く書いてくれたよ」
リコ……徹夜で、って暇な奴。
でもあいつのことってほとんど知らないからなぁ。ちょっと興味があったりして。
P.38
名前:龍崎 戒
身長:177cm 体重:60キロ
血液型:AB型
へぇABなんだ~って、あたしはO型だから、うわっ!!相性最悪!!
その点叔父貴はA型だから相性いいんだよね♪
趣味:読書(愛読書:ゲーテの詩集)
読書って、味気ねぇなぁ。ま、だてにメガネかけてるわけじゃねぇか。
好きな食べ物:米、辛いもの、プリン
米って……そのセンスどうよ
苦手なもの:高いところ
高所恐怖症かよ。男のくせに。
と、一々突っ込みをいれたくなる内容だった。
最後に、
好きな女の子のタイプ:男勝りな女の子
「これってあたしいけるかもしれないジャン♪」
とリコは嬉しそうに手を打った。
「いや、いくってマジで狙うつもり?」あたしはちょっと表情を歪めて聞いた。
「行く!だってかっこいいんだもん。頭もよさげでインテリっぽいし」
リコは拳を握って、ガッツポーズを作った。
「女って好きだよなぁ。ああゆう爽やか系」
千里が面白くなさそうに唇を尖られた。
ホント…あんな弱そうな男、どこがいいんだか……
あたしはため息を吐いた。
P.39
「あ!」
食べた後の弁当をしまおうとしたとき、リコが声をあげた。
「「何?」」
またも千里と声がかぶった。
千里は嬉しそうにしてるけど、あたしは千里を軽く睨んだ。
こいつとはもってどうする。
「龍崎くん、誕生日10月24日だって」
「それが何?」
あたしは若干うんざりしてきた。
そんな情報どうでもいいよ。
「だぁかぁら!龍崎くん、蠍座だってこと」
―――――!!!
あいつが!?蠍座??
恋の波乱を呼び起こす蠍座BOY。
何だろう……
胸の辺りがざわざわして、嫌な予感がする。
あたしは誰にも知られないよう心臓の辺りをそっと押さえた。
P.40
こいつが……蠍座ねぇ。
午後の授業が始まって、あたしはメガネの後ろ姿をまじまじと見た。
サラリとしたさわり心地のよさそうな茶色い髪。
決してがっちりしてないけど、まぁまぁ幅のある肩。
ミステリアスな謎多き人間……確かに謎っちゃ謎だけど……
なんて考えてると、後ろからトントンと肩を叩かれた。
振り返ると……名前なんだっけ?あ、そうだメガネ2号だ。が、申し訳なさそうに手を合わせている。
「ねぇ、朔羅ちゃん、消しゴム忘れちゃったんだ。貸して?」
ってか朔羅ちゃんって馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ。
でも……
「いいよ」
あたしはペンケースから消しゴムを抜き取ると、再び振り返ってメガネ2号に手渡した。
「ありがと」
メガネ2号が消しゴムを受け取ろうとして、あたしの手をさりげなく握ってきた。
「朔羅ちゃんの手って、白くて細くてきれいだね」
え?ちょっと……!!!
P.41
何触ってるんだよ!!!
あたしはそう怒鳴りたくなって、口を開けた。
その瞬間―――
空気をも切り裂くような鋭い殺気を感じて、あたしは目を開いた。
思わず上体を後ろに反らす。
それと同時に前からメガネ(初代)の腕が勢い良く伸びてきた。
グシャッと紙がよじれる音がする。
「どーぞ」
聞いたことのない低い声……
怒気をはらんだ声。ドスが利いてるっていったほうが正しいのか。
前の席から配られてきたプリントだろう。
メガネ(初代)は後ろを振り返って、その束をメガネ2号の顔に押し付けている。
「ど、どーも……」
プリントで顔が見えないが、メガネ2号の間抜けな声が聞こえた。
あたしはそろりとメガネ(初代)の顔色を窺った。
顔には笑みを湛えていたが、纏うオーラは冷たくて目に見えない静電気のような殺気がピリピリと立ち込めている。
メガネの奥の丸い瞳がすっと細められ、まるで獲物を捉えようとする蛇そのものの鋭い視線だ。
ドキリ……とした。
この感じ……、あたしはこのオーラを纏う人間をもう一人知ってる。
叔父貴―――
伝説の黄龍と同じ空気だ。
P.42
ドキンドキンと高鳴る心音を抑えようとして、あたしはさりげなく胸に手をやった。
癖なのだろうか。
何かあると心臓の辺りを押さえるのは……
それだけじゃねぇ気がするけど。
「メ、メガネ……?」
あたしは恐る恐る問いかけてみた。
「あ。ごめん。朔羅さんの分はちゃんとあるよ?」
にこっと、笑った顔はいつもの優しい笑顔で。
言葉も少なく前を向いたメガネ(初代)の背中は、やっぱりさっきと変わらない無防備な背中だった。
あの一瞬の殺気は何だったのだろう。
こいつ―――
何もんなんだ……?
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