。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。

 

第一章

『出逢ってしまった』

従兄妹!?

 

虎間組っちゃ、関西白虎会直系の組で確か3代目当主の虎間 道惨(ドウザン)の跡取りが組み頭やってるところだ。

 

 

現在4分割されてる日本の極道会の中でも、特に荒くれ者が多いという噂だ。

 

 

その中で虎間 道惨の息子の3兄弟は群を抜いて、強烈、冷酷無慈悲だと言う。

 

 

3代目当主はもう歳で、次期当主を誰にするか内輪もめが絶えない。

 

 

誰を跡取りにするかということで、内部抗争が勃発しているという。

 

 

 

 

そんな中での、兄弟関東進出……

 

 

 

見えないところで、何かがうごめいている。

 

 

 

 

それは静かに、ホントに静かに

 

 

 

やがてはあたしたちに喰らいつこうと、飲み込もうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

P.27


 

―――――

 

――

 

 

「朔羅さん、何か苛々してない?」

 

 

同じ学校だし、おまけに同じクラスだし、メガネと一緒に登校するのは気が引けたが、こいつの面倒をくれぐれもよろしくと、叔父貴に念押しされちゃしょうがねぇ。

 

 

色々考えたいことがあったのに、あたしたちは肩を並べて登校することになった。

 

 

昨日はじっくり見ることがなかったけど、メガネは結構背が高い。

 

 

まぁ、叔父貴ほどではないけど。

 

 

 

何だろう。

 

 

学校の敷地に入ると周りの生徒たちの視線があたしたちに集まってる。

 

 

「誰あれ?かっこい~♪」

 

 

「転校生かな?イケてない??」

 

 

なんだメガネのことを噂してるのか。

 

 

 

 

 

 

「朔羅ちゃ~ん!!」

 

 

 

遠くで声がして、男が走り寄ってきた。

 

 

ゲ!

 

 

あたしは思わず眉をしかめた。

 

 

金髪に近い茶色に染め上げた髪をきれいに立たせている。学校一不良と名高い、進藤(シンドウ)先輩だった。

 

 

去年、入学したときからしつこく言い寄られてる。

 

 

 

うっぜーんだよ!この、キモ金髪野郎っ!!

 

 

 

なんて言えやしない。

 

 

 

 

P.28


 

「おはよ♪朔羅ちゃん……こいつは?」

 

 

キモ金髪野郎はあたしの隣で歩いているメガネをちょっと不審そうにじろりと見た。

 

 

って言うか馴れ馴れしく名前呼ぶなよ。

 

 

「クラスメイト。そこで一緒になったんです」

 

 

あたしは目一杯の愛想笑いを浮かべた。

 

 

「朔羅ちゃんの彼氏?」

 

 

「まさか!ただのクラスメイトです」

 

 

メガネはちょっと眉をぴくりと動かしただけで、何も言わなかった。

 

 

何も言うなよ。ってオーラをあたしが出してたからかな。

 

 

「そっか。ま、いいや。ところで朔羅ちゃん、いつになったら俺と付き合ってくれるの?

 

 

俺、朔羅ちゃんを退屈させないよ?」

 

 

いや、退屈とかそういう問題じゃねぇって……

 

 

「気持ちはありがたいんですが、あたし……好きな人がいるんで…」

 

 

これはホントのことだ。

 

 

「でも付き合ってないんだろ?長いじゃん、片思い。相手にされてないって。そんな薄情な奴忘れて俺にしとけよ」

 

 

うっさい!あんたに言われなくてもわかってるっつーの。

 

 

あたしの好きな人は、

 

 

こんなキモ金髪野郎やメガネよりも、もっとずっと大人で優しくて、強い人。

 

 

手が届かないなんて分かってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「相手にされてないって、何であなたに分かるんですか?」

 

 

 

あたしとキモ金髪野郎の会話を黙って聞いていたメガネがのんびりと口を開いた。

 

 

 

 

 

P.29


 

……!?

 

 

「な、何だよお前は!?」

 

 

キモ金髪野郎が声のトーンを落として、メガネを睨んだ。

 

 

でも全然怖かねぇけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がんばってる人に向かって、諦めろとか平気で言えちゃう人ってその人のこと大切に思ってない証拠だよ。

 

 

僕なら大切な人だったら、それがどんなに辛いことでもがんばれって後押しするよ」

 

 

 

 

 

 

 

メガネ……

 

 

 

 

「な、何だよ!てめぇは!?」

 

 

キモ金髪野郎の凄みも聞かずにメガネはあたしの腕をとった。

 

 

「朔羅さん、行こう」

 

 

え?

 

 

 

どこへ?なんて問いかける暇もない。

 

 

メガネはあたしの腕を掴みながら、さっさと歩き出した。

 

 

 

 

思いのほか、力強い手だった。

 

 

 

振りほどくことができない。

 

 

 

それは力のせいか。

 

 

 

それとも何か違う理由か……

 

 

 

 

何だか分からなかったけど、確かなことはメガネの言葉にあたしが救われたってことだ。

 

 

 

あたしの気持ちがほんのちょっと楽になったってこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

P.30


 

教室に入る頃には、メガネは腕を放してくれたけど、それまで無言で廊下を歩いていた。

 

 

その横顔がちょっとピリピリしているように見えたのは、あたしの気のせいだろうか。

 

 

何ていうの?怒ってる風にも見えるし、悲しんでいるようにも見える。

 

 

こういうのどっかで見た。

 

 

あ。

 

 

そうだ。

 

 

うちの廊下に飾ってある般若の能面!

 

 

あれにそっくりだ。

 

 

 

 

 

何だよ、この般若野郎……

 

 

 

 

 

 

「おはよ~」

 

 

あたしは自分の机に鞄を置いて隣の席にいる千里に声をかけた。

 

 

「おはよ♪朔羅」

 

 

千里は朝から元気そう。

 

 

くっそぅ、肌つやとかが羨ましいぜ。

 

 

なんて考えてると、

 

 

「龍崎さん?1年のときB組だったよね?俺、D組だったの。和田アツシって言うんだ。ヨロシクね」

 

 

と後ろの席のヤツが声をかけてきた。

 

 

ちなみに始業式の席順とは替わってる。あのときの席順は適当だったから千里が近くに居たけど。

 

 

千里の方が良かった。

 

 

和田と名乗ったのは、黒縁メガネの爽やか男子だ。

 

 

命名:今日からお前はメガネ2号だ!

 

 

 

 

 

P.31


 

「はぁ。よろしく……」

 

 

あたしは曖昧に返事を返した。

 

 

「俺!俺はね、C組だった山田!よろしく、龍崎さん♪」

 

 

「よ、よろしく」

 

 

「俺は…」

 

 

「俺は!」

 

 

いつの間にかあたしの周りには男子がいっぱい。

 

 

わ゛~~~!!!!近寄んなっ!!

 

 

同じ年代の男子って何か苦手なんだよ。

 

 

男子の群れの向こう側にリコの姿を発見して、あたしは手を伸ばした。

 

 

「リコ!!」

 

 

「朔羅、大丈夫?」

 

 

リコはあたしを手招きすると、自分の方へ引き寄せてくれた。

 

 

男子たちは諦めたのか、わらわらと散っていく。

 

 

「相変わらずのもてっぷりねぇ」

 

 

リコが呆れたようにため息を吐く。

 

 

 

 

別に……

 

 

もてたくモテてるわけじゃねぇよ。

 

 

ていうか、あれは「モテてる」ってことになるのか??

 

 

新手の嫌がらせじゃねぇの?

 

 

「大体、あたしのどこがいいわけ?」

 

 

そこんとこ、マジで教えてほしい。

 

 

「ん~……やっぱ可愛いから?朔羅はいかにも儚げな美少女って感じだもん。あたしなんて男勝りだし、朔羅がうらやましいよ」

 

 

 

 

いやいやいや……

 

 

 

誰が儚げな美少女だって?誰が可愛いって??

 

 

みんな目ん玉腐ってンよ。

 

 

 

 

 

 

ホントのあたしを知ったら、みんなどん引きするに決まってる。

 

 

 

 

 

 

P.32


 

チクン…

 

 

心臓に小さな痛みを感じた。

 

 

 

 

 

誰もあたしのことを知らない。

 

 

ううん、知られちゃならない。

 

 

あたしの正体を―――

 

 

 

 

 

 

昼休み前の休み時間、あたしの机にリコと千里が集まって談笑していた。

 

 

「ねぇ、朔羅はお弁当?今日学食いかない?あたしAランチ食べたい♪」

 

 

「お☆いいね~。俺もAランチ」と千里。

 

 

「あんたは誘ってないっての」リコが突っ込みを入れた。

 

 

「あたしはお弁当……」と言いかけて、お弁当箱が入れられてる紙袋を手で探った。

 

 

あ。そうだった……

 

 

「ごめん。ちょっと……」

 

 

あたしは紙袋を手に取ると、席を立った。

 

 

 

 

 

キョロキョロと教室を眺めるとメガネの姿はなかった。

 

 

そういやあいつ、あたしの前の席だけど休み時間になるといっつも消えるよな。

 

 

あいつ…どこ行ったんだ?

 

 

教室を出て廊下を歩いてるとメガネが男子トイレから出てきた。

 

 

緊張感のない顔つきで、のんびりとハンカチで手を拭いてる。

 

 

 

 

あたしは廊下の柱に隠れると、メガネが通り過ぎるときに、

 

 

「おい!メガネ」

 

 

と声を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

P.33


 

「あ、朔羅さん」

 

 

ちょっと驚いたように目をぱちぱちさせている。

 

 

「お前、今日昼はどうすんだ?」

 

 

「どうって……決めてないけど。学食があるよね?ここ」

 

 

のんびり言うメガネの前にあたしは弁当箱の一つをずいと突き出した。

 

 

「え?」

 

 

メガネが目をぱちくりさせる。

 

 

「…弁当。一人分増えても作るのには変わんねぇから」

 

 

メガネは弁当の包みを受け取ると、再び目をしばたいた。

 

 

「え?もしかして…朔羅さんが、作ったの?」

 

 

「何だよ。文句あっか?」

 

 

「ううん」

 

 

メガネは慌てて首を振った。

 

 

「毎日、作ってるの?」

 

 

「そうだよ。野郎どもに任せると肉ばっかなんだよ。栄養偏るだろ?」

 

 

「…意外だ…」

 

 

「あ?似合わねぇって言ってんのか?」

 

 

シバクぞ、こらぁ!

 

 

と言おうと思ったら、メガネの顔からにっこりと笑顔がこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

う゛!!!

 

 

 

何だよ、その眩しい笑顔は!!?

 

 

 

 

P.34


 

「違うよ。朔羅さん、いいお嫁さんになるねってこと」

 

 

何でもないようにサラリと言う。

 

 

「は!はぁ!!!」

 

 

びっくりして声がひっくり返っちまった。

 

 

「お弁当、ありがとう。ありがたくいただきます」

 

 

メガネはにっこり微笑みを浮かべたまま、深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「やべ!鐘が鳴った。行かなきゃ」

 

 

それを合図にあたしはそそくさと、まるで逃げるように教室に向かった。

 

 

 

 

 

何だよ……

 

 

調子狂うヤツだなぁ

 

 

 

 

 

 

 

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