。・*・。。*・Cherry Blossom・*・。。*・。
第一章
『出逢ってしまった』
*戒Side*
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バタバタバタッ
猛ダッシュでどこかへ駆け抜けていく朔羅の後姿を“俺”は見送った。
クスっ
思わず笑みがこぼれる。
あんなに必死になっちゃって。可愛いな。
ま、行き先は分かるけどね。
俺はのんびりと歩き出した。
「なぁ、さっき保健室に入っていったのって龍崎 朔羅じゃね?」
「やっぱり!?俺ホンモノ初めて見た!!」
「マジ可愛い!付き合いて~、てかヤりたい」
「な、ちょっと保健室覗きにいかね?もしかして寝てるかも」
「う~イイネ♪寝顔、そそられるよな」
バカ男共二人組がクダラナイ会話で盛り上がってる。
俺は腕を組んで保健室の扉に足をついた。
「あ?何だよ。お前」
二人組みの一人が俺を睨む。
ホント、どこまでもバカ。
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「……よ」
俺の言葉が聞こえなかったらしい。わざとらしく耳に手を当てると、笑いながら聞いてきた。
「は?聞こえね~よ」
ケラケラと下品な笑い声が廊下に響いた。
ここ、結構声響くな。
俺様の美声が誰かに聞かれなきゃいいんだけど。
「失せろって言ってるんだよ。このバカ共が」
俺は男共を一瞥すると、思った以上の反応を見せてくれた。
男共は顔色をさーっと変えて、回れ右して走り去っていく。
チッ
「口ほどでもねー奴ら」
つまんねぇな、とぼやいて俺は保健室の扉を開けた。
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白で統一された棚やカーテン。
消毒液の匂い。
保健室ってのは、どこでも似たような風景なんだな。
美人の保健医でもいりゃ通う気にもなるけど、ここの保健医はむさっくるしいおっさんだった。
当分、保健室のお世話にはなりたくねぇ。
「朔羅さん?」
よそ行きの声で、俺は彼女に呼びかけた。
返事がない。
部屋の半分はベッドスペースになっていて、白いカーテンがかかっている。
寝てんのかな。
「朔羅さん……」
俺は無遠慮にカーテンを開けた。
そしてちょっとだけ息を呑んだ。
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布団に顔を埋めながら、枕を抱えて朔羅が眠っていた。
そのあまりにも無防備な寝顔に、思わずあっけにとられた。
おいおい、いいのかよ。
仮にも龍崎組のお嬢だぜ?
と思いながらも、俺はベッドの端に腰掛けた。
開け放ったままの窓からどこからか桜の花びらが舞いこんできて、ベッドや掛け布団、朔羅の白い肌や柔らかそうな髪にところどころ散っている。
きれいだった。
まるで作り物のように。完成されたそれは、美しかった。
栗色の長いふわふわした髪。
雪みたいに白い肌。
桜色をした唇。
「何か……旨そう…」
言葉通りに受け取るな。
旨そうって言うのは―――つまり……そういうことだ。
俺は彼女の頬をそっと指でなぞった。
「……ん…」
僅かに身じろぎしたけど、起きだして来る気配はない。
長い睫がわずかに震えて、頬に影を落とした。
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俺はちょっと微笑んだ。
「写真で見るよりずっといい女」
想像してたよりずっと強くてたくましくて―――心優しい女。
「黄龍―――――俺はずっと探してた」
俺は屈みこむと、朔羅の白い頬にそっと口付けを落とした。
朔羅の首や髪から、桜の香りがふわりと漂ってきた。
俺の大好きな香り。
「チェリーブロッサム。朔羅……か」
君にぴったりだな。
心の中で呟いて、俺はその無防備で可愛い寝顔にそっと微笑みかけた。
君はまだ知らない。
俺が龍崎 琢磨の養子になった理由を。
龍崎 琢磨が何を考えてるのかも。
知ってしまったら君はきっと傷つく。
深く―――深く……もしかしたら、浮上できないほどの傷を負うかもしれない。
だけど願わずにはいられない。
朔羅が、どうか幸せになりますように、と。
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